パーソナルで大切にしていること

「分かる・できる・自然に現れる」まで、身体の学びを育てる

「先生と同じ形にならない」
「正しく動こうとすると、余計に力が入ってしまう」
「どこを使っているのか、よく分からない」

パーソナルトレーニングでは、このような声をよく聞きます。

見本と同じ形をつくろうとすることは、決して悪いことではありません。フォームは、安全に運動したり、目的に合った動きを探したりするための大切な目安です。

ただし、見た目が同じでも、身体の中で起きていることまで同じとは限りません。

呼吸を止めて頑張っている人もいれば、首や肩に力が入っている人もいます。反対に、床からの支えを感じながら、無理なく動けている人もいます。

だから私は、形だけでなく、

「今、何を感じて動いていますか?」

ということも大切にしています。

見本をまねるだけでは分からないこと

今回の漫画では、ヒップリフトを例にしています。

私は最初に見本を見せながら、

「踵で床を押しながら、骨盤を持ち上げてみましょう」

と伝えました。

すると、お客様は見本と同じ形をつくろうとして、一生懸命にお尻を高く持ち上げました。

しかし、詳しく話を聞いてみると、

「お尻をもっと上げて、腰を反らそうとしていました」

とのことでした。

私が伝えた「骨盤を持ち上げる」という言葉を、お客様は「できるだけ高くすること」と受け取っていたのです。

これは、説明を聞いていなかったわけでも、運動ができなかったわけでもありません。

人は、指導者の言葉をそのままコピーするのではなく、これまでの経験や、そのときに感じていることをもとに、自分なりの方法で動こうとします。

同じ言葉を聞いても、実際に選ばれる動き方は人によって違うのです。

「今、何を感じているか」を確かめる

そこで私は、すぐに形を直すのではなく、質問しました。

「形は大切な目安です。今、何を感じて動いていますか?」

すると、お客様は、

「踵で床を押しています」

と答えました。

ここで大切なのは、「踵を意識することが唯一の正解」ということではありません。

踵と床の接触が、その方にとって現在の動きを理解する手がかりになった、ということです。

もう一度、踵で床を押す感覚を確かめながら動いてもらうと、お客様は、

「力みが抜けて、背中が楽に。背骨が伸びたような気がします」

と、ご自身の言葉で違いを教えてくれました。

「背骨が伸びた感じ」は、背骨が物理的に長くなったことを証明するものではありません。また、感じた場所と、実際に働いた筋肉が必ず一致するとも限りません。

それでも、本人が感じた違いは、次の動きを考えるための大切な情報になります。

身体は、感じながら動きを調整している

私たちの身体は、筋肉への命令だけで動いているわけではありません。

足裏が床に触れている感覚。
身体を支えている場所。
呼吸のしやすさ。
身体の重さや移動。
視線や周囲の空間。

さまざまな情報を受け取りながら、その場に合う動き方を選んでいます。

例えば、暗い場所では歩幅が小さくなります。柔らかいソファと硬い椅子では、立ち上がり方が変わります。重い荷物を持てば、身体の支え方も変わります。

身体は、環境や課題に応じて動きを調整しているのです。

運動でも同じです。

  1. まず動いてみる
  2. 何を感じたか確かめる
  3. 実際に何をしていたか振り返る
  4. 条件や方法を少し調整する
  5. もう一度動いてみる

この循環を繰り返すことで、本人にとって実行しやすい動き方を探索していきます。

パーソナルだから、一緒に確かめられる

全員を一つの形に揃えることが、パーソナルトレーニングの目的ではありません。

身体の大きさ、関節の動きやすさ、これまでの運動経験、その日の疲労、痛みへの不安、床の硬さなどによって、動き方や感じ方は変わります。

そのため、同じエクササイズでも、

  • 足の位置を少し変える
  • 動く範囲を小さくする
  • 速さを変える
  • ボールやバンドを使う
  • 視線や呼吸を変える
  • 支える場所を増やす

といった調整を行います。

道具も、負荷を加えるためだけに使うわけではありません。身体と道具が触れることで、支える場所や力の方向が分かりやすくなることがあります。

トレーナーの役割は、身体を一方的に正しい形へ動かすことではありません。

質問や見本、道具、環境を使いながら、お客様が自分の身体を理解するための手がかりをつくることです。

「分かる」から「できる」へ

私がパーソナルで大切にしているのは、次の過程です。

分かる

自分が何を感じ、実際にどのように動いているのかが分かる。

できる

今までの方法だけでなく、条件を調整しながら別の動き方も試せる。

自然に現れる

最終的には、特定の部位をずっと意識しなくても、その場に合った動きが自然に現れる。

最初は、踵や背中などに注意を向けることが必要かもしれません。しかし、いつまでも身体の一部分を意識し続けることがゴールではありません。

動いて、感じて、確かめる経験を重ねることで、考えすぎなくても使える動き方が少しずつ育っていきます。

身体を直すのではなく、身体との関係を育てる

今の動き方は、単純に「間違っている」のではありません。

これまでの経験や環境、そのときの課題に対応するために、身体が選んできた方法です。

だからこそ、できない動きを無理に繰り返すのではなく、感覚や環境、課題の難しさを調整します。条件が変われば、身体は別の方法を探索できます。

パーソナルトレーニングは、指導者の正解を一方的に覚える時間ではありません。

自分の動きを分かり、別の方法を試せる。
そして、状況に合った動きが自然に現れるようになる。

私は、そのような身体の学びが育つ過程を大切にしています。

最初からうまくできなくても大丈夫です。分からない感覚があっても、他の人と感じ方が違っても構いません。

正しくできているかを気にしすぎるより、まずは今の身体が何を感じ、どのように動いているのか。

一緒に確かめてみませんか?