デスクワークで右腕のしびれ・冷感が出ていた方が、通常勤務を無症状で行えるまでの経過

今回は、医療機関で頚椎症および胸郭出口症候群と診断され、長時間のデスクワークによって右腕の痛み・しびれ・冷感が出ていた方への運動介入についてご紹介します。

この症例で大切にしたのは、

「原因はここです」と一つに決めつけるのではなく、症状が出ない条件を探しながら、少しずつ実際の仕事環境に近づけていくこと

でした。

結果として、介入前は約90分のPC作業で症状が出ていましたが、第4回来店時には約7時間のPC業務を含む通常勤務を無症状で行えるようになり、その状態はその後14日間の勤務日において継続しました。

今回は、どのように身体を評価し、何を考え、どのような順番で運動を進めていったのかをまとめます。


今回のケース

50代女性、事務職の方です。

主な症状は、

  • 右腕の鈍い痛み
  • 右腕のしびれ
  • 腕が冷たく感じる感覚
  • 首から肩にかけての重だるさ

でした。

しびれは、右前腕の親指側から中指・薬指付近まで広がっていました。

また、PC作業を約90分続けると症状が現れ、首を反らす動きや左を向く動きでも症状が増悪することがありました。

医療機関では頚椎症および腕神経叢の絞扼による胸郭出口症候群と診断されていました。

高血圧についても医師の管理下にあり、運動介入期間中には、

  • 新しい薬物療法
  • 新たなリハビリ
  • 注射治療
  • 仕事量の変更
  • デスク環境の変更

はありませんでした。


初回に確認されたこと

初回は、普段の動きだけでなく、肩や首の位置を変えたときに症状が再現されるかを確認しました。

胸郭出口症候群に関連して使用される、

  • Wright test
  • Costoclavicular/Eden test
  • EAST/Roos test

では、いずれも約5秒以内に右上肢症状が再現されました。

また、

  • 患側の橈骨神経テスト陽性
  • 肩を背中側に回す課題で大きな筋出力低下
  • 橈骨動脈拍動の減弱
  • 右肩関節運動の大きな制限

も確認されました。

右肩の運動評価では、

評価初回
肩内旋
肩屈曲90°
水平外転20°

と、特に右側に大きな制限がみられました。


「どこが悪いか」を一つに決めなかった理由

この症例は、単純に、

「胸郭出口の一部分で神経が圧迫されている」

だけでは説明しきれない可能性がありました。

なぜなら、

  • 頚椎症と診断されている
  • 首の動きでも症状が変化する
  • 胸郭出口症候群に関連する誘発テストでも症状が出る
  • 末梢神経へのテストでも症状が出る
  • しびれだけでなく冷感がある
  • 橈骨動脈拍動の減弱も認める

というように、複数の所見が重なっていたからです。

そのため、

  • 頚椎周辺からの影響
  • 腕神経叢周辺への負荷
  • 末梢神経の機械的な刺激
  • 神経血管系への動的な負荷
  • 循環や血管運動反応の影響

など、複数の可能性を考えました。

ただし、ここで重要なのは、今回の評価だけでは、どこに何%の原因があったのかを特定できないということです。

そこで、

原因を言い当ててから運動するのではなく、どのような条件なら症状を増悪させずに動けるのかを探す

ことから始めました。


介入の考え方

介入では、いきなりデスクワーク姿勢を修正したり、肩を強く鍛えたりはしませんでした。

最初は、

身体を支えやすく、首や肩を必要以上に固めなくても動ける環境

から始めています。

介入の流れを大きく整理すると、

仰向け・横向き

四つ這い

座位

立位

実際の仕事に近い環境

という順序です。

昨今の運動モデルでも、仰臥位、側臥位、四つ這い、座位、立位など、支持条件を変えながら運動課題を進行させる考え方が整理されています。

ただし、今回は決められた順番をそのまま進めたわけではありません。

運動後に何が起きたか

を毎回確認しながら、次の課題を決定しました。


第1回:まずは「症状を出さずに動ける条件」を探す

最初は、仰向けや横向きなど、身体を床に預けやすい環境から始めました。

呼吸と腕のリーチを組み合わせた運動を行うと、

「腰が床に吸いつく感じがする」

「息を吐くと首肩が楽になる」

という反応がありました。

次に横向きで呼吸と腕の動きを組み合わせると、

「右の脇腹が伸びる」

「右胸が広がる感じがする」

という感覚が得られました。

さらに座位で運動を行うと、

「今は肩の痛みがない」

という反応が得られました。

第1回終了後には、

  • 右肩内旋:0°→10°
  • 右肩屈曲:90°→120°
  • 右水平外転:20°→40°

と運動機能にも変化があり、疼痛と冷感も軽減しました。


第2回:上肢と体幹を一緒に使う

第2回では、身体を支える感覚を保ちながら、腕の動きを組み合わせていきました。

運動中には、

「お腹で身体を支える感じが分かる」

という反応がありました。

さらに、右腕を伸ばす運動では、

「腕を伸ばすと首肩の詰まりが抜ける」

という反応が得られました。

そのため、次は四つ這いで腕を動かす課題へ進みました。

以前は不快感があった動きでしたが、

「今まで痛かった四つ這いが痛くない」

と話されました。

第2回終了後には、

  • 右肩内旋:15°→30°
  • 右肩屈曲:120°→150°

となり、この時期には本人が感じていた冷感も消失しました。


第3回:仕事に近い環境へ

第3回では、仰向けでの運動だけではなく、座位や立位へ進みました。

目的は、

身体を整えた状態を、実際に症状が出ていた環境に近づけても使えるか

を確認することです。

腕を斜め方向へ動かす運動では、

「胸の奥から息が入る感じがする」

という反応がありました。

座位で腕を動かした際には、

「PC作業の姿勢でも不快さを感じない」

と話されました。

さらに、

「肩甲骨がスッと下がる感じがする」

「肩の力が抜ける」

「首肩が軽い」

という反応も得られました。

右肩の運動機能は、初回から第3回終了時までに、

評価初回第3回終了時
右肩内旋45°
右肩屈曲90°160°
右水平外転20°45°

となりました。


第4回来店時の結果

第4回来店時には、初回に約5秒以内で症状が再現されていた、

  • Wright test
  • Costoclavicular/Eden test
  • EAST/Roos test

で、症状が再現されなくなっていました。

また、

  • 患側橈骨神経テスト:陽性→陰性
  • Lift-off課題での筋出力:MMT1→3

という変化もみられました。

ただし、この症例で最も大切だと考えている結果は、検査結果ではありません。


一番大きかったのは、仕事ができるようになったこと

介入前は、

PC作業を約90分続けると、右腕の痛み・しびれ・冷感が出現する

状態でした。

第4回来店時には、

実働7時間、休憩1時間の8時間勤務の中で、約7時間のPC業務を行っても、痛み・しびれ・冷感を感じない

状態になっていました。

さらに、その状態はその後14日間の勤務日すべてで継続していました。

今回の介入を、

肩の可動域が増えた

だけで評価するのではなく、

本来困っていた仕事を、症状を気にせず行えるようになった

ことまで確認できた点は、とても重要だったと考えています。


今回の介入から考えたこと

今回のケースでは、

「この筋肉が硬いから緩める」

「この場所で神経が圧迫されているから、そこを開く」

という一つの原因と一つの対処法だけでは進めませんでした。

実際には、

  • 胸郭
  • 肩甲骨
  • 肩関節
  • 末梢神経
  • 神経血管系
  • 長時間の作業環境

など、複数の要素が関係していた可能性があります。

そのため、

まず症状を出さずに動ける条件を作る

ところから始めました。

そこから、

どんな感覚なら動きやすいのかを本人と確認する

そして、

その状態を、別の姿勢でも使えるか試す

さらに、

最終的に実際の仕事環境で確認する

という順番で進めました。

この症例で行った流れを簡単にまとめると、

症状を出さずに動ける環境を作る

本人が身体の違いを感じる

四つ這いなど別の条件で試す

座位・立位へ進む

実際のPC作業で確認する

というものです。


「楽になった」で終わらせない

今回、本人の言葉も少しずつ具体的になっていきました。

最初は、

「楽になった」

という大きな感覚でした。

その後、

「右胸が広がる」

「お腹で身体を支えている感じがする」

「腕を伸ばすと首肩の詰まりが抜ける」

と、身体のどこで何を感じているのかが少しずつ具体的になっていきました。

もちろん、このことだけで、

身体の地図が書き換わった

などと言うことはできません。

ただ、

自分の身体の中で起きている違いに気づき、それを言葉にできるようになる

ことは、自分で身体を調整していく上で大切な過程の一つだと考えています。


この症例から学んだこと

今回の症例では、最後まで、

「症状の原因は100%ここだった」

とは分かりませんでした。

頚椎の影響なのか。

胸郭出口周辺なのか。

末梢神経の影響なのか。

循環の影響もあったのか。

実際には、複数の要因が重なっていた可能性があります。

だからこそ、

病態を完全に説明できるまで何もしない

のではなく、

症状を悪化させない条件を探し、その人の反応を確認しながら、少しずつ実生活に近づけていく

ことが重要だと感じた症例でした。

今回のケースでは、身体を整えたことだけがゴールではありません。

最終的には、

仕事をしても症状が出ない

という、その方が実際に必要としていた状態まで確認することができました。

私自身も、身体の評価だけで終わるのではなく、

その人が日常生活の中で、今まで以上に楽に動けているか

まで確認していくことを、今後も大切にしていきたいと思います。


本症例について

本記事は一症例の短期的な経過をまとめたものであり、同じ症状を持つすべての方に同様の結果を保証するものではありません。

また、しびれ、筋力低下、強い冷感、皮膚色の変化、急激な症状悪化などがある場合は、運動だけで判断せず、医療機関で適切な評価を受けることが重要です。


参考文献

  1. Jones MR, Prabhakar A, Viswanath O, et al. Thoracic Outlet Syndrome: A Comprehensive Review of Pathophysiology, Diagnosis, and Treatment. Pain Ther. 2019;8(1):5-18.
  2. Povlsen B, Hansson T, Povlsen SD. Treatment for thoracic outlet syndrome. Cochrane Database Syst Rev. 2014;(11):CD007218.
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  4. McQuade KJ, Borstad J, de Oliveira AS. Critical and theoretical perspective on scapular stabilization: what does it really mean, and are we on the right track? Phys Ther. 2016;96(8):1162-1169.