NEWS
細身だがメリハリ不足を訴える40代女性への介入
2025/12/11

1. クライアント概要(詳細は割愛)
- 体重は約2kg増え、筋肉量約1.3kg増加。
- 下腹は−8cm、ヒップは+5cmという“メリハリの変化”が見られました。
主訴・ニーズ
周囲からは「痩せている」と言われるが、
- 下腹部だけがぽっこり見える
- お尻と太ももにメリハリがなく、たるんだ印象
- 上半身も、胸元〜デコルテにボリューム感が出ない
と感じており、「体重を減らしたいのではなく、メリハリのある体型にしたい」という目的で来所した。
※本文中のBefore/After写真(矢状面・前額面)は、シルエットの変化の参考として掲載。
2. 評価
2-1. 姿勢・骨格パターン
静的立位姿勢(矢状面・前額面)
- 軽度の骨盤前傾
- 下腹部の前方突出
- 肋骨前方シフト/伸展優位の上半身戦略
うつ伏せでのレッグレイズおよび片脚スクワット、歩行観察
- レッグレイズの際に、大腿骨頭が過剰に下方へ移動した
- 立脚側骨盤が外側にスウェイし、体幹が反対側へ傾く
- 歩行時の立脚初期〜中期にかけて同様の「お尻の横揺れ」がみられ、
股関節の前額面安定性不良が示唆された
2-2. 機能テスト
- 骨盤隔膜(骨盤底)の挙上を確認するテスト
- 骨盤前傾を確認するテスト
いずれも左側のみ陽性であり、
左骨盤の歪みパターン(左側の骨盤が挙上・前傾しやすいパターン)と分類した。
2-3. 総評
- 下半身:歩行パターンと骨格配列のエラーに起因する「大腿四頭筋の過緊張&お尻のたるみ」が主な問題。
- 上半身:呼吸パターンのエラーに起因する伸展戦略(肋骨前方シフト+下腹突出)が体型
(特に下腹・デコルテ)に影響していると考えられた。
3. 介入
期間・頻度・ツール
- 期間:7ヶ月
- 頻度:月2回(計14セッション)
- 介入:呼吸再教育+ピラティスエクササイズ+ウエイトトレーニング
3-1. 介入① 呼吸・肋骨ポジションの再獲得(初月〜2ヶ月末)
初期2ヶ月は、肋骨ポジションの再獲得と骨盤隔膜の抑制にフォーカスした。
当初は、
- 下腹部にうまく力が入らず
- 腹筋中部(みぞおち〜へそのあたり)ばかりが収縮
→ 呼吸の際(吸気・呼気どちらとも)下腹が膨らみ、伸展戦略がさらに強化される状態だった。
事前の評価で骨盤隔膜挙上テストが陽性だったため、
典型的な90-90ポジションでのアプローチよりも、
- 四つ這いポジションなど、骨盤隔膜を抑制しやすいポジションを優先した。
具体的には、
- 四つ這いで骨盤を後ろに傾ける感覚
- 後縦隔への吸気拡張(背中側への呼吸)
➡︎ 最初の2ヶ月はほぼ「後縦隔の拡張+骨盤隔膜の抑制」に終始し、
下腹部が“抜けずに呼吸できる”状態の獲得を目標としつつ、
補助的に腕立て伏せやリフォーマーでのフットワークも行った。
ここでのピラティスは、
「呼吸とポジションを整え、のちの荷重動作・ウエイトトレーニングへ橋渡しするための道具」として位置づけた。
3-2. 介入② フロンタルプレーンでの股関節・骨盤安定化(3〜4ヶ月目)
肋骨ポジションと骨盤隔膜がある程度コントロールできるようになった段階で、
「お尻の横揺れ」に対してのエクササイズを追加。主な方向性は以下の3つ。
- 片脚立位に近い姿勢での側方重心移動
- 内転筋と中殿筋の協調を促すドリル
- 歩行の立脚期を模したエクササイズ
目的
- 片脚支持時の骨盤スウェイ減少
- 「前ももで支える」から「股関節(お尻+内もも)で支える」感覚への移行
- 歩行パターンの修正
徐々に片脚エクササイズ(チェアを使ったスクワット系エクササイズ)の要素をメニューの約半分まで増やし、
片脚立位に近い(机や椅子で補助を使った)姿勢で側方重心移動の際に起こる荷重方向と軸の感覚をコントロールすることを繰り返し練習した。
お尻の横揺れが少なくなってきた時点で、ジムと自宅の両方で自体重スクワットを宿題として実施してもらった。
3-3. 介入③ ウエイトトレーニング(5ヶ月目から7ヶ月末まで)
ポジションと歩行パターンの土台が整ってきた段階で、
ヒップと上半身のボリュームアップを目的としたウエイトトレーニングを本格導入。
メイン種目
- スクワット
- ブルガリアンスクワット
- 腕立て伏せ
- ベンチプレス
負荷条件
- 回数:10回 × 3セット
- ブルガリアンスクワット:最大負荷 10kg
- 腕立て伏せ:最
- 強度:RPE8〜9を目安とし、ほぼ毎回オールアウトに近いレベルまで実施
狙い
- 下半身:
大殿筋・ハムストリングをメインドライバーにし、
ヒップアップと太もも前の張り感軽減を目指す。 - 上半身:
大胸筋上部〜前鋸筋〜体幹前面の支持力を高め、
デコルテ〜胸元の立体感を出す。
4. 結果
4-1. 体組成・周径
- 体重は約2kg増え、筋肉量も約1.3kg増加。
- 下腹:72cm → 64cm(−8cm)
- ヒップ:80cm → 85cm(+5cm)
➡︎ 体重と筋肉量は増加しているにもかかわらず、下腹はサイズダウンし、
ヒップはサイズアップするという“メリハリ改善”が得られた。
クライアント自身も、
「体重は増えているのに、下腹とお尻の見え方が全然違う」とコメントしている。
4-2. シルエット・姿勢
矢状面
- 下腹部の前方突出が減少し、ウエストラインが縦方向へスッと伸びた印象。
- 骨盤前傾が軽減し、お尻のトップ位置が引き上がった。
- 肋骨前方シフトが軽減し、胸郭が骨盤上に「乗る」姿勢へ変化。
前額面
- 片脚立位・歩行時の骨盤スウェイが減少。
- お尻の横揺れが軽くなり、歩行時の見た目が安定した。
5. 考察・総評
1)「痩せているがメリハリがない」層へのアプローチ
本症例は、体脂肪率・体重ともに低めでありながら、
下腹突出とヒップ・太もものシルエットに悩みを抱える典型例であった。
体重を落とすのではなく、
- 下腹部の張り出しを抑えるポジションの再獲得
- ヒップと上半身のボリュームアップ
を目指したことが、クライアントの主観と客観の両面で
満足度の高い変化につながったと考えられる。
2)骨盤隔膜+後縦隔へのアプローチの有効性
初期評価で骨盤隔膜挙上テストが陽性だったため、
90-90ポジションではなく、四つ這いポジションを用いて
- 骨盤隔膜の過活動を抑制
- 後縦隔への吸気拡張
を優先した。
これにより、「下腹が抜けないまま呼吸できる」状態が作られ、
上半身の伸展戦略がやわらぎ、
スクワットやブルガリアンスクワットで
前ももではなく股関節(ヒップ)で受ける感覚へ移行しやすくなったと考えられる。
3)ピラティス+フロンタルプレーン介入+ウエイトの組み合わせ
本症例におけるピラティスは、
- 呼吸・骨格ポジションを整え
- 荷重方向と軸の感覚を変え
- そのうえでウエイトトレーニングに繋げる
“トランジションツール(橋渡しの道具)”として機能した。
フロンタルプレーンでの股関節安定化ドリルを挟んだうえで、
ブルガリアンスクワットや加重腕立て伏せ(RPE8〜9)を実施した結果、
- 下半身:ヒップボリュームの増加+前もも優位からのシフト
- 上半身:デコルテ〜胸元の立体感+伸展戦略の是正
が、低〜中頻度(月2回)でも得られた。
4)今後の課題
- 本症例は単例であり、同じプロトコルがすべての
「痩せているけれどメリハリがない」層にそのまま適用できるとは限らない。 - 今後は、同様の歩行パターン・呼吸パターンを持つクライアントを蓄積し、
「歩行起因の下半身のたるみ」と「呼吸起因の上半身伸展戦略」に対する
標準的なアルゴリズム化を作成していきたい。
